西穂独標から焼岳、乗鞍岳方面/

山行日
2009年9月5〜7(日)
天候
晴れ
ルート

  新穂高―西穂高山荘―西穂高岳―奥穂高―新穂高

参加者
 リーダー:中島   
 (会計) 岸田    (記録) 北村      計3名


    山行報告  中島 貞夫
 9月5日(土) 京田辺6:00−新穂高温泉10:30−11:30西穂高口12:20−西穂高山荘13:30 泊  
 新穂高温泉までは順調に走り駐車場に入ったがどこも満車で、警備員にたのんで詰め込んでもらった。観光客で一杯のロープウエイで西穂高口まで上がり、屋上で雲の切れ目から槍ヶ岳を確認して西穂山荘へ出発した。数人下山する登山者とすれ違ったが、山荘に着くと多くの登山者でテラスは一杯であった。時間も早いので丸山まで登って展望を楽しんだ。遠くは雲に覆われていたが、西穂や焼岳,笠岳ははっきり見られた。今夜はフトン1枚に1.5人でゆったりと寝られたが暑いのにはこまった。
 
 9月6日(日) 山荘3:50−西穂独標5:00−ピラミッドピーク5:45−西穂高岳6:55−天狗岳9:25−ジャンダルム12:10−奥
           穂高岳14:15−穂高岳山荘15:00 泊  
  月明かりで薄暗い中を4時前にスタートする、丸山まで登ると風もあり指先がつめたく感じられる。前方の西穂や前穂がシルエットで浮かぶ。独標近くなるとヘッドランプもいらなくなり歩きやすい。同方向に向かう数人がいる。ここからが神経を使って進むべきところでいくつかのアップダウンの後西穂高岳に到着、今朝から歩いた尾根が足の下にみえる。上高地は雲海の下である。前方には大きな奥穂高岳が屏風のようにそびえている。一端大きく下りて天狗岳に登り返してまた大きく下ってここからが奥穂高岳への登りだ。大きい岩を登ってまた登ってもなかなか上が見えない。2時間くらいかかってようやくジャンダルムが見えるところまできたが、ガスに覆われはじめてはっきりと確認できない状態になり、しばらく風の流れを見て空荷でジャンに登ったが下はまったく見えない。トラバースしてロバの耳に向かうが厳しい下りで一歩一歩、一手一手を慎重に、ゆっくりと降りて前に見える馬の背を登る、名前のとうり全体に丸くなった岩稜の先は刃物のようだ。其の上には奥穂のピークが見えて人もいる。険しかった縦走路もここまでで終わり一安心である。ゆっくりと休みたいと思ったが、ガスに覆われていてそんな雰囲気でもないので山荘まで降りてからお茶でもと早々に下る。ツアーの登山者数十人が空身で登ってくるのを待つ。危ない鉄梯子をおりて山荘のテラスで無事縦走を祝いカンパイ。  
 涸沢フェスティバルがあるとかで山荘は満員、フトン1枚に2人で今夜は寝られないのではないかと、談話室で9時まで寝酒をチビリと付き合って寝るが、夜中に廊下に移動する。

 9月7日(月) 山荘6:40−涸沢岳7:05−穂高岳山荘7:40−白出沢―荷継沢9:50− 11:50白出沢出合12:40−14:00新穂
          高温泉15:00−京田辺19:40  
  昨日の夕焼けはきれいだった。西の空の雲海の上に黄金いろから赤くなるまで長い時間楽しませてもらった。東の空には満月が輝いていた。今朝は上空に雲が無く東の水平線が明るくなってきて、浅間山の煙が上がるのが分かり、八ヶ岳の上の雲に朝日が縞状に反射しているのを、カメラマンが盛んに写している。やがて浅間山の後から太陽が昇ってくる。こんなきれいな日の出をみられたのは何年ぶりだろうか。  ゆっくりと仕度をして下山にかかろうと思ってテラスにでて空を見上げるときれいな青空に涸沢岳が目に入った。時間もあるので登ることに合意して荷をおいて上がる。登るにつれて南に富士山と南アルプスが現れてこれはラッキー、30分もかからづピークにたつと北に槍ヶ岳から北穂高岳がまじかに見られ、これまたラッキーだった。うしろには昨日歩いた西穂からジャン、奥穂がはっきりと確認できた。  
 長い白出沢の下り、うんざりというところで岸田さん転倒、足のすねに切傷を負う。 幸い歩くには支障が無いので良かった。荷継沢から林間の中に入り少し涼しくなり、鉱石沢からは沢を見ながら歩いた。途中に細長い滝がありはるか上の方に西穂のピークらしいのが望まれた。右俣林道出合でのんびりと昼食、槍ガ岳から降りてきた人が通り過ぎていく。穂高平の牧場でのんびりと草を食む牛を見ると下界におりてきた、今回の山行も無事おわったのを実感する。    
 今回の厳しい穂高の縦走のために、弱音もはかず私の後をついてトレーニングをして無事完走できたことを岸田、北村さんに感謝とお礼をいいます。 続きは来年を期待して、がんばりましょう。





                 西穂からピラミッドピーク

天狗岳から西穂高岳

天狗岳から奥穂高岳///////////////////////////

                  天狗岳から槍ガ岳

涸沢岳から奥穂高岳、ロバの耳、ジャンダルム
「写真提供は中島さん」


     西穂高岳〜奥穂高岳の縦走を終えて  北村 正博  

 この山行の感想を書くにあたって、今回ほど“心”“技”“体”の準備の大切さを真剣に考えさ せられたことは無かった。この計画が出たのは5月号の「かんなび」。今年の夏山は迷わず「Om から登る富士山」と今回の「北アルプス縦走」と決めていた。7月の富士登山は、帰った日の夜 の落石死亡事故のニュースにショックも受けたが、無事終えられた事に非常に満足していた。し かし、今回の山行は、いつもの山登りとは異質のものだった。
 そもそも、私が参加を決意したのは、ただ「穂高に行きたい」の一念だけだった。上高地から 見る穂高連峰は私の大好きな景色で、憧れの山だった。登山を始めて3年。自分なりに体験をしてきた3年だった。しかし所詮3年、知識も技術もない初心者だ。ただ未知の山への想いだけはみなぎっていた。折りしも、本会は三十周年を迎え、メンバーの登山意欲の高揚がひしひしと感 じられた。そんな雰囲気が私を後押ししてくれた事は言うまでもない。
 私は、参加したい意向を中島さんに伝えた。ただ計画は、西穂〜奥穂〜前穂の3泊4日の行程 だ。この3泊というのが、私にとっての辛い関所であった。ご存知の通り家族の許可が得られな いからだ。その旨を伝えると、前穂を取り止め、2泊3日の計画に変更して戴く事が出来た。こ うなったら今更「やっぱり止めます」とは、口が裂けても言えなくなった。家族には、8月は、「泊 まりの山は行かない」事を条件に、一つ目の関所はクリアできた。ただ「どこの山へ行くの?」 の質問には「上高地の辺り」としか言えなかった。当然このコースの難易度からすれば、私には 無謀だというのは気付いていた。登山を長くされている方々に、今度このコースに行く事を伝え ると、「ええ?…」とか「あのコースは行った事がない」とか心配される言葉しか返ってこない。 地図を見ると 危 、垂直のクサリ、垂直の岩場、ナイフリッジ、逆層スラブ、浮石・砂礫が多い、 “北アルプスの中でも屈指の難ルード… ほんとに大丈夫だろうか。家族にこんなコースだと言おうものなら、結果は明白だ。恐る恐るネットでコースを検索してみると恐ろしい岩場が目に焼きつく。文章を読めば鼓動が高鳴る。思わず途中で封印した。こんな事を中島さんに言うと、 「金毘羅山のトレーニングに来て下さい。」「慎重に行けば大丈夫」と言葉少ない。もうここまで きたらやるしかなかった。いよいよ、ここから自分への挑戦が始まった。トレーニングは、天候不順で7月に2回、8月に3回(愛宕山ケーブルカー道〜月輪寺コースや金毘羅山Y懸尾根をY 懸の頭まで往復8回)行ったが、果たしてこれでいいのだろうかと心配は尽きない。それと、当 初8人程の参加者が1人減り、また1人減りと、結局3人になった事も心細さを感じさせる要因になっていた。
 ついにその日がやってきた。余程天候が悪そうなら日をずらすことも考えて戴いていたが、3 日間とも降水確率が20〜30%だったので決行することになった。一日目は新穂高温泉からロープ ウェイで標高2156mの西穂高ロまで快適な空中散歩。そして、2385mの西穂山荘まで樹林帯を登る。今日は、明日に備えて、西穂高岳に連なる岩峰を見に少しルートを登ってみる。東に明神岳・前穂高岳、西には笠ヶ岳、南には焼岳、乗鞍、御岳まで見通せる。素晴らしいパノラマだ! 時 の経つのを忘れる。
 二日目、3:00起床。気合いが入る。満月が煌々と道を照らし、少し肌寒い。今日は期待できる。 独標、ピラミッドピークとガレた斜面は岩場に変わり、ハイマツの姿もだんだん少なくなる。何回も岩峰を登り返し、6:55西穂高岳(2909m)登頂。振り返れば尖った峰々が朝日に輝く焼岳に連なる。上高地は雲海に覆われその美しさに目を奪われる。前方に目をやれば、槍ヶ岳に連なる岩峰が我々を待ち構えているかの様にその荒々しい姿を現す。いよいよだと気合いを入れ直す。やがて、右に吊尾根から前穂高岳の稜線を望みながら、岩峰は険しさを増していく。切り立った岩 壁には縦横に節理が走り、その剥がれた岩石が、まるで積み木を無造作にバラマキ、積み重ねた様に急斜面を埋め尽くしている。「こんな光景は初めてだ!」 この岩石は、穂高安山岩類と呼ばれる火成岩らしいが、凍結破砕作用によって容易に破砕されてしまうらしい。そんな岩片が浮き石となって非常に歩きにくい。それよりも、不用意に歩くと落石となり、自分よりも他人に怪我を負わしかねない。しかし、細心の注意を払うも落石させてしまう事があった。「落!」と大声を張り上げる。息を飲んだ。その落下していく音たるや、岩石の雪崩状態となり凄まじい音が谷深 くまで響き渡る。下に登山者のいない事を願うしかなかった。天候は、天狗岳を過ぎ、ジャンダ ルムに近づくにつれガスに覆われてきた。目の前に迫る巨大な岩塊が不気味さを増す。ザックをデポし、いざジャンダルムヘ…。12:10ガスに覆われた憧れの頂上は、まさに夢幻の世界のよう であった。ここからロバの耳・馬の背のナイフリッジと今日一番の難所が続く。この難所を乗り越えればと、全神経を手と足に集中させ、焦らず1ステップ、1ステップを確実に運んでいく。 岩場を乗越えた眼前には、奥穂高岳(3190m)の雄姿がそびえていた。14:15 頂上には、穂高神社の山宮が祀られた大きなケルンがあった。展望はガスに阻まれ残念であったが、記念撮影を終え、 穂高岳山荘まで気を抜くことなく最後の垂直の壁を降りた。中島さんと熟い握手を交わし、11時間の激闘を称え合った。美しい夕焼けと満月が、今日一日の無事を祝福してくれているかのよう に輝いていた。
 涸沢カールを眼下に見ながら、煙を吐く浅間山からの美しいご来光で三日目が始まった。 予定にはなかったが、涸沢岳(3110m)まで登ること20分。完璧に晴れた青空のもと、北の方向には、目の前に北穂高がどっしりと構え、槍ヶ岳を中心とした表銀座・裏銀座の山々が雄大に連なる。南の方向に目をやれば、吊尾根から連なる前穂高岳の後ろには、八ヶ岳から南アルプスの山々、 そしてその奥には富士山がぽっかりと浮かんでいる。まさに絶景だ!「ついに見てしまった。」この絶景を見てしまった今、山への想いは留まるところを知らないことを実感した。今日は、雪渓が長く残るという白出沢コースを下山することになる。沢に入るや否や、冷たい風が谷底から吹 き上げてくる。しかも、奥穂高からジャンダルムに連なる高い稜線に阻まれて陽の光が当たらな い。道理で雪渓が融けないのだ。しかし、もうこの時期はほとんど残っていなかったが、それよりもこの沢は半端じゃなかった。切り立った崖こそ無いが、破砕されたあの岩で埋め尽くされ、 “浮き石がたくさんある”というレベルのものではない。一歩一歩、足の置き場を探し、すべり 落ちるのを踏ん張る。この格闘が約2q、2時間以上続いた。昨日の格闘とはまた違い、足の太 ももはパンパン。
  その後は久しぶりに樹林帯を歩く。「やっぱり緑はいいな。」と木々の癒しを改めて感じる。牛が 放牧された牧場で、なぜか頬がゆるむのを覚え、無事ここまで下りてこられたんだと実感する。 そして足取りも軽く新穂高温泉へ…。後は、駐車場横の『深山荘』の露天風呂で汗を流し帰路に着いた。
 今回、未熟な二人を連れて行って下さった中島さんには心から感謝申し上げます。そして、ト レーニングの大切さを改めて身をもって体験させて戴きました。いくら周到な準備をしても事故は起こるかも知れません。でも『備えあれば憂いなし』の気持ちを忘れず、今後の登山に生かし ていきたいと思います。

 追記  富士山の時もそうでしたが、また帰ってきた後に、死亡事故の嫌なニュースが飛び込 んできました。11日こはジャンダルム付近で、あるパーティーの男性が心肺停止になり。 その方を救助する為の防災ヘリが墜落し3人の隊員が死亡されました。 14日には吊尾根で1人が滑落死、1人が凍死(その方を助ける為か?)で発見されました。
  いろんな意味で考えさせられた山行になりました…