幌尻岳 2052m

日 時 2005年8月4日(木)〜8月7日(日)
天 候 曇り時々晴れ
コース ◆一日目
仮設駐車場9:20発→徒渉開始12:45→幌尻山荘15:20着(泊)
◆二日目
幌尻山荘4:00発→幌尻岳8:45→幌尻山荘12:15→
仮設駐車場16:00着
参加者 リーダー:佐々木  サブリーダー:山口
男性:倉光 志賀 金本 田中 西上 森本
女性:西上 山田 上杉 倉光 堀尾 大谷 澤田 長野 森本
合計:17名


<山行報告>
 二・三日前の豪雨が額平川の徒渉を閉鎖させていた。一時は幌尻岳を断念し、羊蹄山に振り替えようと引き返しかけた。通信手段の途絶えた日高山麓の深山では、全く情報が取れない。行き会う登山者やタクシーのドライバーの聞き取から、どうしても諦めきれない幌尻岳への徒渉を決行する決断をした。多少の不安があったが、増水した川の表情を見ぬことには、撤退の言い訳は出来ないと思った。

 仮設駐車場から奥幌尻橋林道ゲート、増水した川を見ながら取水施設まで行き、ここで徒渉の準備をする。川の流れは速いが水は比較的清らかだった。右岸沿いを高巻きしながらしばらく行くと、いよいよ徒渉の始まりである。急流であったが、トップの責任で慎重に流れに入る。思っていたより爽やかで足元もしっかりしている。深さは膝上20から30cmくらいであったが、最初から恐怖心があってはいけないので、渡りきってからロープとシュリンゲを使用し徒渉者を確保する。

 右岸左岸と徒渉するたびに段々慣れて、流水を楽しむ余裕さえ皆に出来てきた。4度目からはそれぞれ少しの支援補助で徒渉が出来た。こうして渡る事21回、最後の徒渉で幌尻山荘に無事到着安堵した。決行の決断がよかった。

 よく朝、4時出発。樹林の急登の道をゆっくりペースで行くと、命の泉に着く。このあたりが森林限界でこれから先はハイマツの海である。更に急登で岩石の露出した尾根道はハイマツのトンネルとハイマツ漕ぎの連続であったが、すぐに稜線に出て視界が開けた。目指す幌尻岳の山頂をはじめて確認、広大な北カールが斜面いっぱいのお花畑が裾野に広がっていた。花を楽しみながら、予定より30分遅れで2052mの激しく造山運動を繰り返し隆起した高みの頂きに達した。

 言葉はいらない。握手でその感激を表現した。好天で北に放射状に広がる大雪の山々、石狩山脈、十勝山系、夕張岳・芦別岳の山塊、西には蝦夷富士と、はっきりとは同定できないが、四方雄大なうねりのほんの一角の山頂で、皆それぞれの思いを最大限に味わったに違いない。東カール・七つ沼カールとさすが氷河期の痕跡はすごい。カールには立ち入る事は出来ないが、きっと高山植物の宝庫であろう。去りがたい気持ちを捨て下山する。

 幌尻山荘に着き昼食の後、再び徒渉を開始する。水位はかなり下がっていて、今度は渉り易い。それでも慎重に慎重に繰返すうち、いつまでも川の中に浸っていたい気持ちであった。12時間ほどの行程で遥かなり幌尻岳から全員無事下山ができた。やはり秘境のすごい山であると同時に、この山の醍醐味は何と言っても徒渉とハイマツ漕ぎがメインであろう。難関の秘境、北海道日高山脈最高峰幌尻岳の登頂に参加された皆さんとともに感激を味わった事を最大の喜びとして大切にしたいと思います。
 遥かなり幌尻への道は、皆さんに貴重な体験を与えたことと思います。ありがとうございました。
(報告者:佐々木英夫)


  


  


<感想>
 あー面白かったけれど怖かった。でも再び徒渉(急流でない沢)に挑戦したい。帰路の最後の徒渉のあと、リーダーが「ここで徒渉は終り」と言われた時の第一番の感想。今回の山行ほど何度もイメージ登山をしたことはなかった。幌尻岳に登る為には徒渉しなければならないし、その為のシューズの履き替えや着替えを何処でするのか、飲食物の効率良く摂取する為の工夫を思い描いた。買物に行って、一つ二つと装備の品物がふえて、出発前々日頃には4畳半の部屋一杯に並べていた。

8月5日
 いよいよ今日は徒渉だ。晴天だしどうか増水していませんようにと祈る気持ちでレンタカーに乗車。登山口の駐車場で徒渉はやや危険と情報を得る。危険をおかしてまで登山したくない気持ちと、行ける所まで行ってみたい気持ちが交差する。リーダーに従うのみ。後ろ髪をひかれる思いで引き返し始めたとき、朗報が入った。徒渉できるとの事。

 取水施設で昼食。額平川に沿ってしばらく歩き徒渉開始。沢シューズに履き替え装備を整える。時計を見ると12時45分。そうそう時計もぬらしてはいけないとリュックにいれる。四ノ沢出会いから徒渉の連続だ。水に入ってびっくりした。水が冷たい。流れが速い。前の人に続いて渡ろうとするが、なかなか渡れない。少しでも重心の移動をしようとすると体ごと流されそうになる。最近はいつも2本のストックを用意しているのに、少しでも荷物を少なくしようと、1本だけにした事が悔やまれる。

 ストックを竿のように上流にさし、足は流れと平行に位置しなるべく抵抗を少なくする。前の人が渡るのを良く見る。皆さんが色々と指導してくださるが、慎重のうえにも慎重となる。一度バランスを崩し倒れそうになった時、左右の方が手を差し延べてくださり、本当に嬉しかった。それにしてもこんなに流れが速いとは思っていなかった。何回か渡る内に水の冷たさや、大腿上部までの水深には慣れたが急流には最後まで怖い思いだった。

8月6日
 4時出発。今日も晴天。北海道の朝は寒いと思っていたが寒くない。山荘からいきなり急登。それだけ高度を上げているのだと自分を納得させる。だんだん沢の音が遠のくと「命の水場」があった。再び急登、ハイマツ帯を抜けると一気に視界が広がり一面お花畑。短い北海道の夏を彩っている草花が愛らしくって、健気に感じた。北カールの底は湿地。そのカールは言葉に表せない雄大で今までの疲れをふっとばしてくれる。頂上は風が強い。360度の大展望だ。皆さんと握手して感動を分かちあった。
(上杉郁子)
 
              
<感想>
 今回のハイライトは額平川の徒渉であった。小心者の私は早くから「行きたし怖し」で、例の如くとぐろを巻いていたが、いよいよその時である取水ダムで登山靴を地下足袋にわらじという出で立ちに変え、ズボンを膝上まで捲り上げて準備完了。子供のときスカートの端をパンツの裾に押し込んで、めだかとりに夢中になっているうち、お尻にひやりと来るものがあり「しまった」と思った経験があるが、今回の徒渉に役立つ「川遊び」とは程遠い。

 まず、リーダーが果敢に急流に足を突っ込んで渡られる。深さも流れの強さも分からないのに、その勇敢さに驚く。早速私達の為にロープを張ってくださった。ロープを持って川の中に入っている男性の足が赤くなっていた。水が冷たいのだろう。岸辺で順番を待っていると、前の人が足をとられてしまって転んだ。周りの男性が駆け寄り、起こそうとするが強い流れでなかなか、足を突っ張る事ができない。私は急に手足が震えだしが「やるっきゃない」と言い聞かせ、足を突っ込んだが、流れの圧力は想像以上のもの。男性の援助で何とか渡れた。何というところへ来てしまったのかと後悔する。

 こんな始まりだったが、半分の徒渉を終えた頃から、少し面白くなってきた。流れのきつい所は片手、または両手でストックをしっかり突っ込み、流れの上手に体を向けて敵と対峙する。歩く時も敵に隙を見せないように、足をすくわれないように、すり足で慎重に横に歩を進める。相手が弱いと思ったら、蹴っ飛ばし、蹴散らかして歩き、しぶきを楽しむ。そのうち自分で「ドンドン」と言いながら、調子をとって足を進めて行く。勇みすぎて遂にお尻をぬらしてしまった。もう気遣いはいらない。早い話が水遊びになっていいのだ。

 おかげさまで皆さんに守られて、自分でもない勇気をふりしぼっての山行を重ねるにつれ、少しずつトラウマが取れてきているようで嬉しい。他の努力もいるけれど、一番のネックはこの恐怖心と臆病に固まってしまうことだと思っている。
リーダーをはじめ同行の皆様本当にありがとうございました。
(倉光展子)

  

(写真提供:山口さん)